杉並浮浪雲
毎日、精一杯生きてる。余分なところなんて微塵も無い。
ギリギリと、世間や自分とこすれ合いながら。
「赤く痛くなるほどに 俺達生きているのだ」

「俺は此処にいる 届くか お前の空に」
どうだい そこからはどんな景色が見えているのだろうか」

わかりすぎてるくらい感じてる、そこにいること。
その存在はいつも右手縦に2本並べたぐらいのところにある気がしてる。
そしてその魂は、マンガのふきだしの形で空を渡り、私が見上げた空から頭の上に降りてくる。
それぐらいの魂込めて唄っているのだ、求める人には間違いなく届いている。
私の方からもふきだし吐き出してるけど、届いていますか。

心持ちが楽な時には、電車の窓から目に見えるままの景色をありのままに伝えることができる。
「線路沿いの空き地に放置されているテレビがあります。」「今日はこの丘に雪柳が咲きました。」
「雲の流れが早いです。」「向かいのビル工事が始まったみたい。」
しかし、気持ちに曇りがある時には、目に映るだけの山の色さえも伝えられなくなっている自分に気づく。
自分が今、此処に生きて見ている景色を、この目を通して気持ちを通して知ってほしいのに、伝えられない。

びっくりする程辛いこと、人に裏切られた悲しいこと、その過去に触れただけで痛くなること、
毎日泣いてしまうくらいに寂しい時もあること、叱咤されても立ち直れないような情けない内側、
そんな素振りは見せないようにと頑張っている。
人から天真爛漫に見られてると思うとホッとする。
それが自分の美学と思ってきた。

「歪む笑顔の裏に 隠しきれない 流した涙の跡がある
いいさ そのままでいいさ」

見えてる人には見えるのだ。必死に隠そうとしていること。
隠しきれてないものがあることも。
笑顔の奥に押し込みごまかして安心しているつもりなのに、そうする度に自分を痛めてることには気づいてる。
やっと、そのままでいいさ、という声に出逢ったのに、心を解かす方法を知らない。
でも、わかってくれる人がいる、というだけでどれ程までに救われることか。
目に見えることで助けるだけが救うことではない。
<「わかるよ。」という言葉だけで本当に救われるのか?それだけで力になれるとは思わない。>
そう言った人がいた。悲しかった。
事実なのかもしれない。
しかし、心が寄り添えて安心できる、そんな言葉がある。
今こそそんな言葉が欲しい時がある。
「いいさ そのままでいいさ」は、私にとっては大きな大きな、救いの言葉だ。

「無頼の風に ヒュルリ吹かれて」

初めてライブで聴いた時には聴き取れなかった。
その後、手元に届いた音源ではっきり、その言葉を聞いた。
「ブライ」。
体中に痛みを伴った衝撃が走り、力が抜けた。「ブライ?」
慌てて歌詞カ−ドで確認した。

「無頼」。

やっぱり。愕然とするほどに反応した体に間違いは無かった。
これだったんだ。自分で自分を苦しめていたもの。
痛い。グサリと突き刺さり、えぐられる。
自分が意識して掲げているならとても強固な精神。
無意識のうちに陥っているとしたら、その矢印は望まぬ方向に導きつづけてしまうだろう。
寂しいくせに、隣にいる人に手を差し伸べてほしいはずなのに、そうできずにまた独りで涙を流すのだ。
強がって。

「何処へ流れ着こうとも どんなに傷つこうとも
やがて眠るその日まで 馬鹿だよ 夢追い掛けるのだろう」

どんなに辛い目に遭っても、どんなに孤独にさいなまれても、振り返れば何故かまた同じ道を歩んでいる。
たとえたどり着く先が他人と一緒でも、この道は険しいに違いない。
険しい道を望んでいるわけじゃないのに。
そしてこれからもまた続く。
それはきっと、無頼の風に不器用に運ばれているせいだろう。

「無頼の風に ヒュルリ吹かれて おまえも独り 杉並浮浪雲」

無頼の風に吹かれた浮浪雲同士がこの空で出逢う。
しかし、慰めあったりはしないのだ。
流した涙の跡はそのままでいいさ、と告げあい、また無頼の風に吹かれて違うところへたどり着く。
孤独に怯える日々を送るとしても、一人なのは自分だけじゃないとわかったから。

ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。
どれだけ言っても足りない。
この唄をありがとう。
決して誰かを励ましているようには見えない唄かもしれないけれど、
増子さんが唄ってくれることで、確かに慰められ、包まれ、暖められ、力を滾らせ、熱くさせ、
そしてその魂の熱さに涙する。
自分に、痛いほど大いに重なっていると感じるからだけではなく、
この曲は間違いなく、私の今の時代を代表する怒髪天の名作です。


痛い、痛いよ、もう痛いよ〜と思った瞬間、次の曲「祝日前夜」に繋がり、私は再び救われる。
願ってもない展開。
ありがとう。





イントロの「タンタタンリラ〜ン」という上原子さんの泣きのアルペジオ風(笑)。
唄が入ってからの坂さんの、「赤く〜」「タンタンタン・・タン・
タン・タン・・・」っていう、叩いてるの?反響なの?っていう音がたまらなくいい。
ベースラインはやっぱり清水さんが考えてるのかなぁ。怒髪天のベースって、所謂リズム隊っていうんじゃなくてすごく唄ってるから、曲自体がもっと唄って聴こえるんだよね。だから、あんなに踊りながらビール飲んで気持ち良くなりながら(たまに気持ち悪そうなこともあるけど・笑)弾けるんだよな、と思いますね。

2002.3.30